- しか
- I
しか(係助)体言またはそれに準ずるもの, 動詞の連体形, 形容詞・形容動詞の連用形, 格助詞などに付き, 下に常に打ち消しの語を伴って用いる。 特定の事柄・条件だけを取りあげて, それ以外のものをすべて否定する意を表す。 また, 「だけしか」の形で一層強い限定の意を表す。
「その事を知っているのは彼~いない」「正解者はたった一人だけ~おりませんでした」
〔くだけた言い方では「っきゃ」となることがある。 「ぼくがやるっきゃないだろう」〕IIしか(助動)〔過去回想の助動詞「き」の已然形〕⇒ き(助動)IIIしか(終助)〔上代では「しか」であったが, のち「しが」ともいわれるようになった〕自己の動作に関して望み願う気持ちを表す。「てしか」「にしか」の形で用いられることが多い。 …したい。 …したいものだ。 「まそ鏡見~と思ふ妹(イモ)も逢はぬかも/万葉2366」「おもふどち春の山辺に打ちむれてそこともいはぬたびねして~/古今(春下)」「伊勢の海に遊ぶあまともなりに~浪かき分けてみるめ潜(カズ)かむ/後撰(恋五)」
〔語源については, 過去の助動詞「き」の已然形「しか」からの転, 過去の助動詞「き」の連体形「し」に係助詞「か」の付いたものなどの説がある〕IVしか(連語)〔副助詞「し」に係助詞「か」が付いたもの〕「いつしか」「なにしか」の形で用いられることが多い。「いつ~と霞みわたれる梢どもの, 心もとなき中にも/源氏(末摘花)」「あづまぢのさやのなか山なかなかになに~人を思ひそめけむ/古今(恋二)」
〔下にさらに助詞「も」が付いても用いられる。 現代語では副詞「いつしか」の中に残存している〕→ いつしか→ なにしかVしか【史家】歴史の研究家。 歴史家。VIしか【史科】歴史に関する科目。 また, 歴史学科。VIIしか【四果】〔仏〕 小乗仏教において, 修行によって得られる結果を分類したもの。 聖者の位に入った預流(ヨル)果, 天界と人間界を往復する一来果, 流転することのなくなる不還(フゲン)果, 完全な悟りを開く無学果(阿羅漢果)の総称。→ 四向VIIIしか【四火・四花】灸穴(キユウケツ)で, 背の下部の四点。IXしか【四科】〔論語(先進)〕儒学で重んじられる四種の科目。 すなわち徳行・言語・政事・文学。Xしか【子夏】孔門十哲の一人。 姓は卜(ボク), 名は商, 子夏は字(アザナ)。 礼の形式を重んじ, 礼の精神を重んずる子游(シユウ)の学派と対立。 文学に長じた。 生没年未詳。XIしか【市価】市場で売買されるときの商品の値段。XIIしか【師家】(1)先生の家。(2)師。 先生。 しけ。XIIIしか【志賀】石川県北部, 能登半島西岸, 羽咋(ハクイ)郡の町。XIVしか【歯科】歯の治療や矯正などを行う医学の一分科。XV「~医師」
しか【死火】〔仏〕〔すべてが無に帰するところから〕死を火にたとえた語。XVIしか【然・爾】(1)そのように。 そう。「このころは千年や行きも過ぎぬると我や~思ふ見まく欲りかも/万葉 686」
(2)感動詞的用法。 相手の言葉を受けて, あいづちを打ったり, 承諾の意を表すとき用いる。 そうだ。 はい。「生むこと奈何(イカニ)とのりたまへば, 伊邪那美命, ~善けむと答へたまひき/古事記(上訓)」「童, ~, 五六たびばかりは見奉りたり, と答ふ/今昔 20」
~あればそうであるから。「我等, 昔をかしし罪により, 悪しき身を受けたり。 ~忍辱の心を思ふともがらにあらず/宇津保(俊蔭)」
~言・う〔「爾云」「云爾」の訓読み〕文章末尾などにおき, 上述のとおりという意を表す。「理りに因(ヨツ)て~・ふのさ/西洋道中膝栗毛(七杉子)」
~はあれどそうではあるが。 しかあれども。XVIIしか【疵瑕】〔「しが」とも〕欠点。 あやまち。 瑕疵。XVIII「遂に~たることを免るべからず/即興詩人(鴎外)」
しか【知客】〔唐音〕禅寺で, 客の接待に当たる僧。XIXしか【私家】(1)自分の家。 私宅。(2)(朝廷や役所に対し)私人の家。 また, 個人。XX「~集」
しか【糸価】生糸(キイト)の価格。 生糸の相場。XXIしか【紙価】紙の値段。 また, 相場。~を高・める⇒ 洛陽(ラクヨウ)の紙価(シカ)を高めるXXIIしか【紙花】(1)紙でつくった花。 紙の造花。(2)「死花花(シカバナ)」に同じ。XXIIIしか【翅果】⇒ 翼果XXIVしか【詞華・詞花】詩歌・文章で, 巧みに飾って表現した文句。 すぐれた詩や文章。 詞藻(シソウ)。XXV「~集」
しか【詩家】詩人。 詩客。XXVIしか【詩歌】⇒ しいか(詩歌)XXVIIしか【賜暇】官吏などが願い出て休暇を許されること。 また, その休暇。XXVIIIしか【雌花】⇒ めばな(雌花)XXIXしか【鹿】〔古くは「か」といい, 「めか(女鹿)」に対して牡鹿を呼んだものという〕(1)偶蹄目シカ科の哺乳類の総称。 体重10キログラム以下から800キログラムまで, 多くの種類がみられる。 細長い四肢をもつ優美な外形で, 枝分かれした大きな角が特徴的。 灰色・褐色など体色の変異は大きい。 森林・草原からツンドラまで広く分布する。(2){(1)}のうち特にニホンジカを指す。 ﹝季﹞秋。(3)遊女の階級の一つで, 「囲(カコイ)」の異名。 鹿恋(カコヒ)の字を当てるところからいう。「香こそ愛らし梅(=天神)の花, ~の起きふししをらしく/浮世草子・元禄太平記」
~の角を蜂(ハチ)が刺す鹿の角を蜂が刺しても鹿は何も感じないように, いっこうに手ごたえがない。 全く平気でいる。 蛙(カエル)の面(ツラ)に水。 鹿(シシ)の角を蜂が刺す。~を逐(オ)・う〔史記(淮陰侯伝)「秦失其鹿, 天下共逐之」〕政権や帝位を得ようとして争う。 中原に鹿を逐う。~を逐(オ)う=者(=猟師(リヨウシ))は山を見ず〔淮南子(説林訓)〕利益を得ようと熱中する者は, 周囲の情勢に気がつかないことのたとえ。~を指(サ)して馬となす〔秦の趙高が鹿を二世皇帝に献じて馬であると披露すると, 群臣は趙高の権勢をはばかって反対を唱えなかったという「史記(秦始皇本紀)」の故事から〕自分の権勢をよいことに, 矛盾したことを押し通す。 また, 人を愚弄する。 白を黒という。 鹿を馬。
Japanese explanatory dictionaries. 2013.